1 売主の先祖が名義人となっている土地の購入

Xさんは、自宅の背後にある公道にでるため、近隣の人(Yさん)から土地(甲地)を買い受けて代金を支払い、通路として使用していました。

ただ、甲地の名義人はYさんの先祖のままで、明治の終わりに所有権の登記をしていたのです。Yさんは、自分で相続人を調査して、自分名義に相続登記を行ったうえで、Xさんに所有権の移転登記を行おうと考えていたのです。

2 相続登記、所有権移転登記ができない

ところが、いざ相続人調査にかかってみると、何世代にもわたって相続が繰り返され複雑な様相を呈しています。Yさんはついに調査を途中であきらめたようです。そこで、Xさんから、何とか自分名義に登記できないか、との相談がありました。

(1) 相続人調査

私の事務所で相続人調査を数か月かけておこなったところ、現時点で登記名義人の子孫が75人いることがわかりました。

(2) 対応策の検討

さてこれをどうするか、ということですが、ほとんど何も事情を知らない75人全員の合意を得て遺産分割協議等による登記を行うことは、事実上不可能です。
結局、通路として使用していた期間が10年を超えていたことから、75名全員を相手方として、時効取得を登記原因とする所有権移転登記手続請求を行うこととし、判決による登記を目指すこととなりました。

(3) 裁判

多勢の相手方のいる裁判で難しいのは、訴状が無事に送達できるのかどうかです。外国にいるとわかっていても住所がわからないケースもあります。また、訴状が送達できても、高齢の方だとつい最近亡くなってしまったとか、あるいは訴訟を行う能力にかける、といったケースもあります。その意味で第1回の口頭弁論期日が開けるのかどうかがポイントになります。この件ではなんとかハードルを乗り越えて、無事に審理に入ることができ、希望通りの結果となりました。

(4) 登記

あとは、登記手続をしなければなりません。最終的には、裁判の結果を前提として代位による相続登記を20件行い、その上で判決による登記を行って、無事にXさん名義にすることができました。